
ライラックの木かげで
わたしたちは目を輝かせて語りあった
明日のこと
来年のこと
希望にみちた未来のことを
やさしい微風が黒髪をゆすり
むらさきの花のうえ
あかるくひろがっていた 四月の空
□□学生時代に読んでいた、新川和江さんの詩の一遍です
少し黄ばんだ詩集を本棚からとりだし
無心に開いたつもりでしたが
この「ライラックの森」という詩の頁に
いつのものなのか、栞がはさんでありました
その瞬間、薄紫色の校舎の芝生を渡る風が
こちらにふわりと漂ってきて
彼女たちと語りあっていた時間を思い出します
心に宿る憧れや望み
未知なるゆえに言葉にしきれないものを
熱心に能弁に 語り 聴き 胸を熱くしていた
明日のこと 来年のこと 希望にみちた未来のことを
あの時期に描こうとしていた「未来」から
私たちはさらに、ずいぶん歩みを進めてきたように思います
新川さんの詩はさらに続きます
ふたたび みたび
春は確かな足どりで
すべてのうえにやってくる
毎年、ライラックの花はほころび
木かげに渡る風も変わりませんが
語り合っていた少女たちの姿は見えない、という内容が続きます
きっとそれは、木かげから巣立つ雲雀のように
私たちもその少女たちも、それぞれの空に飛び立ったからなのでしょう
ライラックの下で学んだ歌を心強い友として
さらに、自分の詩とメロディで天翔ける日を目指して
「未来」よりもさらに未知に遥かに旅して
多彩なめぐり会いに翼を染めて
辿りつき、手にした「今」という私たちの空は
ひとりひとり独特で、貴重な景色なのではないかと思います
太陽に灼かれ、なおも昇る翼
吹き荒れる風に疲労した翼
気流に身を任せ、翔る喜びにはしゃぐ翼
新しい命を守り、温かくたたまれた翼
水面に身を休ませ、静かに時を待つ翼
あの木かげのように、どこかの下で
私たちはいつか集い、互いの声をさざめかせる
その時は私たちの旅してきた空の色を映す
お互いの瞳を見つめよう
翔け続けてきたその翼の痛みを思いながら
それぞれが守る「今」のひたむきさを認めてあげたい
そして、 私たちは再び語るのでしょうか
明日のこと 来年のこと 希望にみちた未来のことを